彼氏がアイナナにどハマりした話

ジャンルの違うオタクが2人集まるとやることなど決まっている。布教合戦だ。

 

私と彼氏はいつもお互いに布教合戦をしていた。同じゲーム漫画アニメにハマっているときは毎週のように感想を言い合い、楽しさを共有し、自分がめちゃくちゃに面白いと思ったものは「は?ハマれや」とばかりにプレゼンした。

 

その甲斐あって彼は私の影響で「ゾンビランドサガ」「ひなまつり」「抱かれたい男一位に脅されています」などを見るようになったし、私は、私は彼の影響で「ドリフターズ」「トライガン」を見るようになった。

 

 社会人になって行った研修より彼氏と付き合い始めてからの方がプレゼン能力は確実に上がった。それは間違いなく言える。

 

 更に彼氏はイケメンフリークでBLにも理解があった。彼のイケメンフリーク具合と言ったら軽く彼女である私がドン引くくらいで、好きなイケメンが居たらそれはもう豊富なボキャブラリーと海のような山のような抑揚を付けて語り尽くされた。

 

「イケメンと簡単に言うな」「顔がいいだけで終わらせるな」と口を酸っぱくして言われた。

そんな彼の最推し作品は「ディエスイレ」である……ごめんなさいまだ見てません。

 

とにかく、まあまあとにかく。

そんな彼といつものように雑談をするついでに、彼が幼少期保志さんフリークであったことを、私は、知った。

 

ーー保志、さん、だと?

 

私はアイナナを布教した。

狂ったように布教した。

何故ならアイナナでの私の最推しがCV保志さんのモモくんだったからだ。

 

保志さんが好きなら何故アイナナをやらない? くらいの熱を持って布教し倒した。

頼むよ、後生だからよぉ…! と彼女とは思えないしゃがれ声で私は足元にせっついた。

一体何が私をここまでさせるのか。全くわからなかったが、彼は私を哀れに思ってくれたらしく「インストールしたから脚を離せ」と慈愛に満ちた……今思い返すと呆れに満ちていただけのような気もするが、そんな瞳で私のことを見て携帯にアイナナを入れてくれた。

 

数日後。

私「調子はどうだ」と私は電話で聞いた。

「あー今からやる」と彼が宣ったため、ちゃんとやってくれるまでここを動かないんだから!と私はキィキィ喚いた。ハタ迷惑な女である。

 

私「どう? 第一印象は」

彼「なんでバスケしてるんやこいつら」

私「私のIDOLiSH7の中での推しは大和さんだよ」

彼「どれ?」

私「メガネの」

彼「あ、こいつか。ふーん…趣味悪いな」

私「ああん!!?(地を這う声)」

彼「初見では白いのが1番好きかな。トリガーの白髪の子もきになる」

私「天にぃですかね」

彼「いや知らんけどね」

 

通話しながらプレイ中、始終、フーンと塩対応をされた。興味を持っていない対応だった。

私はちょっとだけ「これははまらないやつかな」と思いつつ一部終わるまでは様子を見ようと思い、また数日後に進捗を聞いた。

 

私「進捗いかが?」

彼「まだトリガーが出始めたところまでしかやってないけど、今のところいおりんが可愛いと思う。早めにデレてくれたし、ギャップは安易だけど気持ちはわかるし可愛い」

私「天にぃは?」

彼「九条? 顔はとても好きだけど、思ったより冷たかったし生意気加減が好きになれないかもしれん。様子見だな」

私「ハッハッハ。肩を力抜けよ新人。天にぃはこれからさ」

彼「ウゼェ」

 

私は笑った。

九条天の魅力を、一織の魅力ですらまだ一片たりとも理解できていない彼を。

片腹痛しと言いながら笑った。

まあでもノロノロペースで進めているようなのであれば、彼女にやれやれとせっつかれても面倒くさいかもしれない。

 

私は自分から話題に上がるのはしばらくやめようと思った。ーーしかし2日後。

 

彼から電話がかかってきた。

彼「あのさ、仕事終わった?」

私「終わったよ〜」

彼「よかった、お疲れ様、あのさ」

 

デートのお誘いかな?と私は思った。

しかし次の瞬間飛び出してきたのは私の想像から180度違う言葉だった。

 

彼「アイナナ……超面白いな」

 

ーー衝撃。

私は外で電話をしていたため、声を控えなければならない状況だったが、我慢できなかった。一生分のビッグボイス「せやろ」が近所に響き渡った。

 

私「せやろ。せやろお!? せやろ!!!!」

彼「一部終わったわ」

私「早!!!!!!!!」

 

私は、聞きたかった質問を今こそ繰り出した。

 

私「推しは?」

彼「天ちゃんですね」

私「天ちゃん!!!!!?」

 

彼は九条天のことを2日前まで九条と呼んでいたはずが、今はメロメロな声で天ちゃんと呼んでいた。一体彼に何があったというのか。

 

彼「もう天ちゃん格好いいし可愛い。守りたい。ガチャ回したらいっぱいそーちゃんが出てくるんだけど、天ちゃんがほしい」

私「天にぃオンリーガチャで回したらいいのに。来月ですよ」

彼「マジですか。石貯めておきます。ありがとうございます」

 

ーー十数年ぶりに彼氏が私に敬語を使った瞬間だった。

 

私「いおりんは?」

彼「いおりんも変わらず好きだよ。俺のこと好きなのもすごく分かるし可愛い」

私「紬ちゃんを迷わず俺って言うじゃん…」

彼「サムネの可愛い女の子ずっと誰だろって思ってたら俺だったからすごく気分が良かった。俺めっちゃ可愛い」

私「すんなり受け入れるじゃん…」

彼「そりゃ俺が泣いてたら可愛いだろうなって思ったから感情移入も出来た」

私「どんな理由…」

 

しかしどんなに推していても、多分彼の1番は兄さんなんだと思う。と寂しそうに告げる彼はいおりんの虜になっていた。

ーー私はあの時のリベンジをと思い、聞いた。

 

私「大和さんは?」

彼「ああ、大和っちね」

私「大和っち!!!!!!!?!」

 

長年のマブダチを呼ぶかのようなテンションで大和さんを呼んだ彼に私の声はひっくり返った。

 

彼「大和っちは気安くイケメンなお兄さんなんだけど、まだ色々と隠していて、そこがミステリアスさを出していてなお魅力的なんだと思う。彼のメガネなし姿を見てみたい」

私「お前めっちゃ喋るやんけ」

 

私がもう聞く必要性すらなかった。彼は自分からベラベラと喋っていた。

 

彼「他にも好きになったのがナギかな。喋るたびに笑っちゃうし元気になる。バーベキューのシーンはもう笑いっぱなし」

私「ナギ……」

彼「なんでそんな悲しい声出す」

私「四部読もう……」

彼「先が長いな」

 

とにかくもう一部を読んだのなら話が早い。私は彼に、控えておこうと思っていたセリフをハリフキダシで言った。

 

「早く

二部

読め!!!!!!!!!!!!!!」

 

「嫌だ!!!!!!!!!!!!」

 

しかし彼はピシャッと言い返した。

ショックによってユキさんばりの白目になった私が何故!と聞くと彼はフーーーーッ……と息を吐き出し、大切なものを手に入れた人間のように、繊細な口調でこう言った。

 

「一部終えてみんな幸せになったもん…この幸せを壊したくないよ」

「……」

 

毎月更新を待ってるアイナナ勢みたいな台詞じゃん……と私は言わなかった。

 

「幸せが壊れるかどうかわかんないじゃん、やろうよ……」

 

……それもそうか、と彼は諦めたような口調で呟いた。

彼氏、ほんとごめん………

一部なんてまだまだだよ、これからアイドルのドロドロが始まり不協和音が始まるのさ、とか言えなかったし…

そして一部二部なんて三部に比べたら命の心配しなくて良い分平和な方だよ、という…

本音を押し殺してごめん…

お前の好きなナギも四部には……という話も…出来なくてごめんな……

 

とりあえず今は二部をまたノロノロやり始めたようなのでリヴァーレ先輩についての感想を待っている最中でぇーす!

わーい! 早く彼氏に三部のトリガーのしんどいラッシュをやらせたいなあ!!!!!!!!(マジキチスマイル